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ベートーベン 交響曲 第9番 ニ短調 合唱 1942年 ベルリンフィル RRG録音の聴き比べ
(ブログ記事を転載、記事を追加)


上左DXM105/6 UC 右WF60045

上左UNIC+LP+101+A 右M10 10851009

上左UNIC106 右TV4346/7

 第二次大戦末期、ソ連軍は連合国軍より先にベルリン入りし、その時ベルリンの放送局から大量の録音テープと機材をモスクワに持ち帰った。その中にフルトヴェングラーの大戦中の録音テープが大量にあった。それらがソ連のメロディアレーベルでレコード化されたのが60年代の半ばごろとされているが、ソ連から旅行者が持ち帰ったレコードで始めて西側で明るみになり、ファンを驚かせた。67年ころにこのメロディア盤を使ってベートーベンの5番と9番のレコードコンサートが大阪のABCホールでおこなわれている(記録による)。
 ソ連のレコードは西側に輸出できなかったため、英国ハンター社がメロディアのレコード盤をマスターにしてユニコーンレーベルとして世に出した。いわゆる板起こし盤だ。
 その第一弾が、この第九のレコードだ(UNIC100-101)。発売は68年6月。記念碑的なレコードといっていい。70年代の海外盤の輸入状況はどんなんだったか不明だが、日本の篤志家が英ハンター社と契約してユニコン盤が日本でも制作発売されたが、僅かしか発売されてなくて、当時のレコード目録にも載ってなくその事情はよくわからない。

 このユニコーン盤の第九を買った店で同じユニコーン盤のベートーベンの5番を買った。レコード番号は、UNIC106。ジャケットでは判らないがレーベルに、Made in Japan の印刷があり、国内盤だ。レーベルは UNICORN RECORD になっている。写真の一番下のがこれだ。また、日本語の解説も別刷りで挟んであった。なにより不可解なのは値段で、980円だった。日本プレス、ということで安いのか、理由はわからない。今回買ったこの第九のレコードは日本プレスではなくレコードをそのまま輸入して日本語の別刷り解説をつけて発売されたもので、だから英国プレスと言うことになる。日本でプレスするより輸入盤で売った方が安上がりなので方針を変えたのかどうかは判らない。英ハンター社はメジャーではなくその後、名前は聞かない。

 本題の音質だが、手元に次のLPがある。第4楽章のマトリックスも参考のため記しておく。

 UNICORN(英ハンター社) 100-101(ソ連 Melodia原盤板起こし、今回買ったレコード、2枚組3面カット、UNIC+LP+101+A、写真、中左)
 Colombia(日本コロンビア) DXM 105/6 UC(UCはユニコン原盤と言う意味、2枚組4面カット、UC-367-12、写真、上左)70年11月発売
 Fontana(日本フォノグラム) RL1104 (原盤不明、1枚詰め込み盤) 78年9月発売
 Angel(東芝) WF60045/46 (ユニコン原盤 2枚組み3面カット、UNI-101-A 2S2 43-Y4、写真、上右) 81年1月発売
 Turnabout(米VOX社) TV4346/47(おそらくユニコン原盤、2枚組3面カット、マトリックスはレコード番号と同じ、手書き。写真、下右)69年12月発売
 Melodiya(露メロディア社) M10 10851009 (2枚組3面カット、マトリックス判読できず。写真、中右) 91年1月発売

 Colombia盤、Angel盤はいずれも英ハンター社と契約してユニコーン原盤として発売しているので、当初に発売されたソ連のメロディア盤から見ると孫コピー盤になる。Angel盤はさきにWF7004/5で発売していて、この番号の盤は再発売になる。マトリックスからするとスタンパーを輸入して日本でカッティングしたのだろうか。音質からするとそうだとは思えないが。

 91年に日本の新世界レコード社が働きかけて、ロシアでMelodiya社のマスターを使って20点あまり発売された。上のリストの最後のが、そのうちの一枚だが、60年代に発売されたLPのMelodiya盤の原盤に一番近く音質はいい。中古盤もよく出回っていて少し高い。ユニコン盤は期待したが差は無かった。ただ、先にも書いた国内プレスの5番のユニコン盤(UNIC106、写真、下左)は、音はいい。

 CDは、LPほどの楽しみは無いが、ネット上ではどのCDが音がいいとか、結構熱い。
 もう古い録音で著作権もへったくれも無いので、いろんなのがある。ソ連時代のMelodiya盤の板越し盤を3枚、ほか2枚持っている。LPどうし、CDどうしの比較は同時に鳴らして比較することは出来ないが、LPとCDは同時に鳴らして比較が出来る。それで、OPUS蔵(”おーぱすくら”と読む)盤OPK7003(メロディア青トーチ盤板起こし)と、それぞれのLPを第4楽章冒頭から合唱の前半あたりまで聞き比べてみた。

 後で気がついたがOPUS蔵を比較のCDに選んだのは失敗だった。このCDはかなり低音が持ち上がっていてブーミーな音になっている。

 Fontana盤は一枚に全曲カッティングしてある詰め込み盤で、カッティングレベルが低くおまけにピッチが揺れる。それに今まで気がつかなかったが、ラジオと思われるアナウンサーの声の混信がある。おまけに日本語だ。これは比較にならない。

 Clombia盤とAngel盤はすこし音質が落ちる。Angel盤は中低域が痩せていて少し貧相な印象を受けた。Unicorn盤とMelodiya盤はColombia盤およびAngel盤よりカッティングレベルが高い。その分有利だ。Angel盤は再発売盤なのでそのせいだろうか。
 Turnabout盤は他のLPとはまた、少し違った音色だ。低音は芯があり充実した音がしており、もちろんブーミーにならない。全体に荒々しい音と言った印象で、高音が持ち上げられているような感じ。僅か、高音の音質が荒いか?。これで比べてみても、OPUS盤はかなりブーミーだ。

Angel盤の余白には5番がカップリングされていて、先に書いた、UNIC106の5番と同じマトリックスなので聞き比べてみたが、やはりAngel盤は音質が落ちる。

OPUS蔵の板起し盤は期待したほどではなく意外だった。

 ここまでやってCDを聞き比べない訳には行かない。もう止まらないといったあんばいだ。
 手持ちのCDは以下の通り。
PALETTE(クラウン)PAL1025
Archipel ARPCD 0002
Venezia V1019 (露Melodiya VSG 板起し)
Serenade SEDR2004 (露Melodiya 33D010851/4から板起し、CD-R)
OPUS蔵 OPK7003 (露Melodiya青トーチ盤から板起し)

 最初の2枚は音源不明。あとの3枚は記載の通り板起し。
 LPはMelodiya盤を比較に使った。
 PALETTE盤はCD初期のもので3,200円もした。原盤が悪くレベル変動やノイズが多い。全体にささくれたような音質。
 ArchipelはMelodiyaのLPとほぼ互角の音質。中低音とても充実した音質。TurnaboutのLPとも比べてみたが、これもほぼ同じと言う印象を受けたが、Archipelは中音がやや厚みのある音がする。
 Venezia盤もLPとは判らないほど似た音質。Venezia盤のほうが低音がわずかボンつく。高音のクオリティもわずかに落ちる。ただ、板起しに使った原盤の状態が良くなく、LPレコード特有のノイズが目立つ。総合的な評価では低くなる。
 Serenade盤はカッティングレベルがかなり高い(高すぎ?かも)。生々しい。低音は互角。中高音がわずか音がこもっている印象。
 OPUS蔵盤は先にも書いたとおり低音が膨らみすぎで、ブーミーでボンつく。

 結論
 LPはMelodiya盤がベスト。UNICORN盤、Turnabout盤も互角。
 CDはArchipel盤がベスト。LPのMelodiya盤と互角。
 第4楽章冒頭から合唱が入る中間部分までの比較なので、他の部分はわからない。場所によっては、音のクオリティが変わることもある。厳密には、全曲通して聴く必要がある。
 後に開発されたテープレコーダーの前進、マグネトフォンと呼ばれる録音機をナチスが開発したが、テープの状態や、マスター以外にもヨーロッパの各放送局にコピーテープがあったりして、音源もいろいろで、部分的に音が違ったりしているが、なかなかその差を聞き分けるのは並大抵ではない。

2011年9月19日追記
 CD露メロディアMEL715(MEL CD 10-00715)を入手。LP M10 10851と音質同じ。両方とも少し高音がもし上がっている。英UNICONと比べるとUNICONの方が音は自然だと思う。メロディアは第4楽章で高音が少々うるさく感じる。

2012年3月18日追記
 英UNICORN盤の日本での発売時のYAMHA盤と日本COLOMBIA盤の宣伝パンフレットを入手した。PDFファイルにしている。
                YAMAHAのパンフレット      COLOMBIAのパンフレット

 英UNICORN盤はのちにメロディア盤の板起こしだったことが判明するが、YAMAHAのパンフレットにはソ連から返還されたテープを使用と書かれている。興味深い資料だ。YAMAHAの発売は1969年、COLOMBIAの発売は1970年。

2012年3月18日追記
Mythosの復刻盤
 
 メロディア盤の板起こし復刻盤。
1〜3楽章は音はいいと思うが、第4楽章は少し混濁するように思う。
それよりも、使用した原盤が良くなく、チリパチノイズが多くがっかりした。
特に第4楽章は状態悪い。第4面はブラームスのハイドンバリエーション
が収録されている。これは音質よく、盤の状態も比較的良い。
 それはともかく定価31500円は高すぎる。ぼったくりではないか。盤は厚手
重量盤。ジャケットも金がかかっている。
この盤はたまたまオークションで安く手に入れた。3万なら元のメロディア盤
が手に入れられるのではないかと思う。