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マーラー作曲 交響曲 大地の歌

ブルーノ・ワルター 指揮 ニューヨーク フィルハーモニー交響楽団
ミルドレッド・ミラー(メゾソプラノ)
エルンスト・ヘフリガー(テノール)

収録日:1960年4月18日(ミラーとの録音)、25日(ヘフリガーとの録音)
収録場所:ニューヨークのマンハッタンセンター。
プロデューサー:ジョン・マックルーア


 国内盤は日本コロンビアから1961年6月、OS119/20が初出。2枚組3面でカッティングされていた。1964年9月に全曲1枚2面に収録されて再発された(OS-326)。ぼくはこのOS-326を当時に買った。これが大地の歌の最初のレコードだった。この曲が自分なりに判った、と感じたのは大分あとになってからだと思う。マーラーの交響曲は比較的理解しやすい。ただ晩年の8番は別にして(8番はいまだによくわからない)9番と大地の歌はわかりにくい音楽だと思う。

 この曲、気にいってからいろんなレコード、CDを手に入れた。60年代当時はステレオ録音ではクレッキ盤とヨッフム盤だけで、しばらくしてクレンペラーの新録音が発売された。クレンペラー盤はFMで放送されたときメゾソプラノのルートヴィッヒの歌唱に感動した記憶がある。のちにこのクレンペラー盤を買ったがルートヴィッヒの声がビリつき(歪む)楽しめなかった。

 ワルターの大地の歌は1952年のウイーンフィルとのデッカ録音が有名だ。このレコードもいろいろ集めたので次にHPに載せようかと思っている。
 今回、ワルターのニューヨークフィルの録音を比較した後、ウイーンの録音を聴いてみた。やはり僕はニューヨークの録音のほうがいい。評論家の宇野功芳氏はウイーンの録音を高く評価している。とくにデッカの録音について当時の他のレコード会社の録音とくらべ格段に上質と評価されている。
 これは好みの問題かもしれないが50年代のデッカのモノラール録音はドンシャリ傾向でぼくは好きになれない。同じ時期、同じ場所(ウイーンのムジークフェライン)でフルトヴェングラーのEMIのセッション録音がある。ベートーベンの交響曲第3番、6番田園などだ。ぼくはこのEMI録音のほうが非常にバランスがいいと思う。

 ともかくニューヨークの録音はジョン・マックルーアが担当した。マックルーアの担当した録音はどれもすばらしい。引退したワルターを引っ張り出し、録音専用のコロンビア交響楽団を組織して一連の録音をしたことは有名だが、デッカのジョン・カルショウやEMIのウオルター・レッグほどには評価されていないのは残念でならない。バーンスタインの録音もマックルーアが担当しているが、マーラーの3番(61年)、2番復活の録音は名録音だと思う。これらも評価されていない。

 この大地の歌の録音は本当にすばらしい。何度も聞き惚れた。音の広がり、とくに奥行き感、管楽器の距離感が非常によく出ている。オーケストラがフルで鳴るのは第1曲くらいであとの曲は静かなのが多い。各楽器のソロでの掛け合いや、ハープ、チェレスタ、マンドリンといった繊細な響きを出すパッセージが多く、とくに全曲の半分を占める第6曲「告別」は一番の聴き所だ。

 二人のソリストの評価は平均的なもので特に名唱といわれるようなソロではない。テノールのヘフリガーはモノラル時代(56年)にベイヌムに指揮での録音があり、またニューヨークでのコロンビアの録音のあと63年にヨッフムの指揮でのグラモフォンにも録音している。ヘフリガーのソロはいいと思う。まったく不満は無い。また、メゾ・ソプラノのミラーもいいと思う。何かといえばウイーンでの録音で歌ったカスリーン・フェリアーが引き合いに出されるが、個人的な好みでいえばフェリアーの声は癖があってあまり好きではない。

 以下に収集したLPとCDを紹介する。米盤と日本盤の初期2枚組と蘭フィリップス盤は似たような音質。中低音はやや厚み不足。後の1枚2面にカッティングされたものは低音が豊か。

LP ETERNA盤とCD SONY 35DC、GRAND SLAMを追加する。(2011年12月20日)
LP 英PHILIPS SABL197 を追加する。(2012年7月3日)
CD 日SONY SRCR9975 を追加する。(2012年8月6日)
CD 日SONY SRCR8797を加する。(2013年1月13日)
LP 独 CBS 61981を追加する。(2014年1月14日)
 
   
 米COLUMBIA M2S612 (マトリックス:XXSM50830-1A/50831-1E/50832-1J、レーベル印字マトリックス:XSM50830-50832)2枚3面カット、オートチェンジャー仕様。第4面は「さすらう若人の歌」。レーベルは6Eyes。ディープ・グルーヴあり。オークションでも人気のレコードで何度も出品されていて落札を試みたが、高値になり何度かあきらめた。これは12000円で落札した。状態もよく比較的安かったと思う。専門店では16000円で売られているのをみた。
 音質については、後のSONYプレスと比べると中、低域の厚みが不足しているが音のクオリティ、品位というかSONY盤より高いと思う。カッティングレベルは余裕があるため当然高い。OS326と比べると音色は暗め。
 
   
日本COLUMBIA OS-119/120 (マトリックス:XSM-50830-3/50831-1/50832-2)1961年6月発売4000円。
2枚3面カット、第4面は「さすらう若人の歌」。レーベルは6eyes。ディープ・グルーヴあり。
 おそらく米コロンビアからスタンパを輸入して日本でプレスしたのだと思う。音質は上の米盤と同じ。後のプレスより低音が薄い。 国内盤だがまったく見ない。たまたま大阪の中古店で偶然見つけ狂喜した。1500円だった。盤質も良好。オークションには時たま出品されている。
   
 蘭PHILIPS 835 5724 Y (マトリックス:4A AA835572 1Y 6 670/4A 835572 2Y 2 670 )オランダプレス。
全曲1枚2面に収録。通常1枚ものは第5楽章はB面にくるがこの盤はA面の最後に収録されている。第6楽章は29分。第5楽章は4分26秒。どっちにしろ片面33分くらいになる。ただ、第6楽章は全体に静かな音楽で音圧レベルは低いのでカッティングの余裕はB面のほうが有利だと思う。音質は上2枚と似ていて低音はこれも薄め。クオリティは高い。この盤はオークションで入手した。6700円だった。
   
英PHILIPS SABL197/835 572 AY(マトリックス4A AA835572 1Y2 670 11/10A AA 835572 2Y 1 670 11。英国プレス。
ジャケット、盤は蘭PHILIPS 835 5724Y とそっくり。音質も似ている。ジャケット表は全く同じ。裏は少し違い、この盤にはワルターの写真が載っている。ジャケット、盤のレーベルには835572AYとSABL197の二つに番号が併記されている。 蘭PHILIPS盤の時は気がつかなかったが、冒頭56秒あたりで右CHにドロップアウトの症状があり、テノールのソロが一瞬遠くなり、定位が左に動く。蘭PHILIPS盤も同じ症状がある。日COLOMBIAのOS盤をを確かめてみたが、症状は無い。まだ点検していないが、米COLOMBIA系は問題ないと思う。
 高音が少し持ち上がり、バイオリンの高音がやや安っぽい音に聞こえる一方で抜けの良さを感じる。
   
東独ETERNA 8 25 645 (マトリックス 8 25 645 -1A B78 W N1/8 25 645 -2A B78 W N1)
1枚もの。第5楽章はB面に収録。音の雰囲気はCBC/Colombia系の音。わずかに音に曇りを感じる。雰囲気はいい。
   
 米COLUMBIA MS6426(マトリックス:XXSM-58566-1D/58567-1F)発売は1963年だと思う(ジャケットに(C)1963の表記あり)。米コロンビアの1枚ものの初出盤だと思う。国内盤のOS-326より少しクオリティ落ちるように思う。中古店で入手した。1800円だった。
米MS盤はほかにも持っているが(ワルターの田園)いまいちな印象を受けた。
   
 米COLUMBIA ODYSSEY Y30043(マトリックス:XXSM-58566 1AG 2T/XSM58567-1CB)
ODYSSEYは廉価盤でジャケットはそこそこ厚みはあるがレコード盤は薄く安っぽい。しかし音質はいい。MS盤よりいいと思う。高音部がすこしにぎやかな印象を受ける。このレコードは発売時新品で買ったもの。ODYSSEY盤は中古でよく見かける。安い。
   
独CBC CBS61981(Y30043) (マトリックス:CBS61981 A/B )
米ODYSSYと同じ原盤ではないかと思う。音質いい。83年発売の国内初出CD SONY 35DC115と比較したが、ほぼ似たような音質。賑やかな部分でCDのほうが音に伸びがあると感じた。
   
 日本COLUMBIA OS-326。(マトリックス:C-357-189-2/190-2)1964年9月発売。2000円。1枚もの国内初出盤。当時に買ったもので中古盤はほとんど見ないが見つけたら買っている。だいたい500円〜800円くらい。音質はこの盤が一番気に入っている。音の品位という点ではオリジナル盤とはそん色ない。中低域に厚みがある分、この盤の方がいいと思う。米M2S盤より音色は明るい。
   
 日本COLUMBIA OS-721-C(マトリックス:C-357-1083/1084)1967年7月発売。2000円。日本COLUMBIA盤はこれを含めて発売されたのは3枚だけだと思う(モノラルは別)。日本COLUMBIA盤の中古盤は少ない。あまり発売枚数が少ないのかもしれない。このジャケットのデザインはぱっとしない。OS-326より心持ち音質はいいと思う。
 
日本SONY SONC10118 1969年4月発売。
SONYレーベルの初出盤だと思う。2枚とも中古盤で入手したが2枚ともテストプレスではないかとおもう。レーベルは上のものが本来のデザインで左のはテスト盤だと思う。レコード番号の印刷が他とは違う。

 ソニーの盤のマトリックスはレコード番号と同じなので省略する。 
 OS326と比較してみたが、ほとんどわからない。OS盤の方が少し低音に芯があるかなあ、と感じたが。

 レーベルはどうやら2種類あるみたいだ。
   
 日本SONY SOCL1084 1974年12月発売。SX74カッティング(カッティングマシーン)使用のうたい文句がライナーノートの隅に記載されている。音の雰囲気、確かに違う。
 OS326との比較。SOCLの方が音が少し明るい。低音も明解でよく伸びている。しかし、どことなく音に品位が欠けるような気がする。カッティングレベルは少し高いか、と思った。盤は薄く安っぽい。
   
 日本SONY 30AC 317/18 1977年11月発売。3000円。マーラーの巨人との2枚組み。ジャケットのデザインがぱっとしない。田園のジャケットに使われた写真でトリミングされている。
   
 日本SONY 23AC613 1978年10月発売。2300円。
 SOCL1084と同じカッティングだと思う。
   
 日本SONY 15AC1294 1981年10月発売。廉価盤、1500円。
   
 日本SONY 20AC1833 1983年12月発売。デジタルリマスター盤。ソニー盤はほぼどれも似たような音質だが、これだけはマックルーアがCD用にあらたにミックスダウンをしたもので音質が違う。低音が出すぎ(ブーミー)だと思う。もちろん再生装置、特にカートリッジに性格によるがもう少し締めたほうがいいのではと思う。
 A面の第4曲で低音にノイズが出る。カートリッジによって目立ったり、目立たなかったりだが、他のレコードにはないノイズだ。盤のサーフェスノイズではない。マスターテープのノイズだと思う。
以下にモノラル盤を紹介する。
   
加COLUMBIA M2L 255(マトリックス: XLP50826-1A/XXLP50827-1AE/XXLP50828-1G.
オークションで入手したもの。3000円だった。えらい安いなあと思ったら、モノラル盤だった。安かったし、
珍しい盤なので満足はしているが。 
   
日COLUMBIA OL-128/9 (マトリックス:XSM-50830-3/50831-1/50832-2) 1961年10月発売。3000円。
大阪の中古ショップで見つけたもの。珍しいと思う。ジャケット右上に丸いパンチ穴が開いている。いわゆる
カット盤だ。1000円くらいだったと記憶している。

60年代初めのころはステレオ盤とは別にモノラル盤も発売されていた。初期のステレオ録音には出来の悪いのもあって、モノラルの方がいい、というケースもあった。この大地の歌に関してはステレオの録音としてはほぼ完璧で優秀録音だと思う。それでモノラルを 選択する理由は無い。実際聴いてみても音にステレオの臨場感がなくなると魅力薄くなる。

以下はCD。
   オーストリアSMK64455
SBMマスタリング。
デジタルリマスターのLP20AC1833に雰囲気がよく似ている。低音が厚みあるが、少々ブーミーだ。SRCRのCDとは大分雰囲気が異なる。

2012年2月6日追記。
 同じものを500円で売っていたので入手したらディスクにはMade in U.S.Aの文字があった。CD番号は同じSMK64455だがdiskのマトリックスが異なる。
オーストリアプレス:01-064455-10 15
USAプレス:DIDC-072183
(C)1994(両方とも)
CD裏の印刷は微妙に異なる。
  日本SONY SRCR 2336 1999年7月
DSDマスタリング 
OS119/20と比べてみたが、とても似た音質でLP初期盤に一番近いと思う。しかし、LPにある一種の空気感、空間感が薄いと思う。一連のSONY盤のLPにある中低域に厚みのある音質ではない。
   日CBS/SONY 35DC 115
(C)1983
録音を担当したジョン・マックルーアによるマスタリング。CDの初出盤。
低音がやや過剰だがとても気持ちのいい音。SMK,SRCRよりアナログの雰囲気があり。

CDでは初出のこのディスクが一番いいのでは?
   日GRAND SLAM
発売2011/12
日CBS/SONY SONT12095
(19cm/s 4トラック ミュジックテープ)からの復刻。
 19cm4トラックテープからの再生音とはにわかに信じがたいほどいい音がする。第1楽章は高音部が少々賑やか。いい復刻だと思う。

   日本SONYSRCR9975
発売1995年11月
帯のうたい文句はPDLS採用高音質CD。
音質は他のCDとほぼ同じ。問題はない。
日COLMBIA OS-326と比較して見たが、第6楽章の中間部分のコントラバスの通奏低音は、OS盤の方がレベル高くクリア。微妙に音質が違う。

日本SONY SRCR8797発売1992年3月。2300円。初出35DC115と似たような雰囲気。CDはこの二種が一番好感が持てる。
全体の評価
 第6楽章の冒頭は低音楽器、コントラファゴット、ホルン、タムタム、2台のハープ、チェロ、コントラバスでPP(ピアニッシモ)ではじまる。低域をあらかじめ持ち上げるとこの部分は非常に効果がでてくる。
 それから、随所にコントラバス、チェロによるオルゲルプンクト(ペダル音=持続低音)が出てくる。一番判りやすいのは同じ第6楽章の練習記号21から23にかけてのところ。コントラバスのオルゲルプンクトに、フルートのソロがメゾ・ソプラノのソロに絡むところ。このコントラバスの低音がノイズみたいに聞こえる録音はけっこう多い。この録音はすっきりした音で鳴る。初期盤はこうした低音が弱いのが物足りなさを感じるが。

 上記の低音にかんすること以外で目立った音質差は無い。LPはどれも問題ない。私はOS326とOS721-Cが一番気に入っている。CDは初期盤のLPと比べると若干高音の抜けが悪いように思う。マスターテープの劣化ではないだろうか。強いて選べば35DCかSLAMがいいかも。

 レコード芸術(1961年7月号、第10巻7号)に国内初出盤(OS-119/120)の新譜批評が載っている。批評しているのは村田武雄。推薦盤として詳しく批評している。また、別のページに録音評が載っている。評者は高城重躬。このころの録音評をみていると盤質の良くないものや、内周部の歪などあるものが結構あり優秀録音は少ない。いいものは80点だが、70点75点が多い。この大地の歌は85点を付けられていてかなりいい録音として評価している。「海外プレスに近くなった」という記述が印象に残った。海外盤とまだ差があるということか。